4)でまとめたストーリーに沿って、ストーリーボードを描きます。ストー リーボードのコマ数に制約はありませんが、表現したいストーリーの意味が 十分通じるようにまとめます。各コマは、イラストと、その時の状況や心情 を表現するセリフや解説で構成します。セリフや解説は、4)でまとめたス トーリーを基にします。
表 4-7 ストーリーボードを清書する際のポイント
(1) イラストは伝えたいことが伝わればよいので、下手でも構わない。
(2) イラストにしたい場面を実際に演じ、それを撮影した写真を用いて もよい。
(3) 4)でまとめた各場面における文章(利用者の言葉)に、利用者の感
情が分かるような顔文字等を付加するだけでも簡易的なストーリー ボードとして、十分有益的である(図 4 -16)。ビジュアル的によ り良いものを目指す必要は必ずしもない。
図 4-16 簡易的なストーリーボード(イメージ)
注記)この図は、図 4 -15の内容を簡易的にしたものです。
6.3 ストーリーボード作成時・利用時の留意点
(1) ストーリーボードは、課題解決のアイデアを含む利用者の体験を疑似的 に体験することができる便利なツールです。ストーリーボードによる疑似 体験をした人に感想を聞くことで、アイデア自体が魅力的なものか、採用 するに値するかを確認できます。
(2) 「4 . 2 4) ここまで検討した内容をストーリーにまとめる」及び「5) ス トーリーボードとして清書する」のステップを複数メンバーで実施し、お
互いの成果物をレビューしあうことで、個人では気付けなかった発想を比 較検討するのも一手です。
(3) 可能であれば、サービス化する前に完成したストーリーボードを想定し ている利用者に見てもらい、アイデアが使いたくなるようなものであるか を確認するのがよいでしょう。この時点の感想が芳しくないものであれば、
アイデアを練り直してください。
(4) 見た目だけ整理されていても意味はありません。何が問題なのか、それ に対してどのように行動したのか、その結果どのような嬉しい結果がもた らされたのかが伝わるのはもちろん、利用者にとって新鮮で、魅力のある ストーリーになっていることを心掛けてください。
別紙2 サービスデザイン思考に基づくサービス・業務改革(BPR)の事 例
1 サービスデザインによるNYCの経済支援プログラムの改善
6.4 概要
ニューヨークの給与所得税額控除制度は申請率が低く、無料の税務申告支援 プログラム(VITA)は該当者の3%にしか利用されていない一方、該当者の約 77%は有料のサービスを利用しています。そこで、当該サービスの現状を、一 連の利用者体験全体で深く理解するために、利用者への聞き取り調査等を行っ た結果、利用時間帯が不便、そもそも VITAの認知度が低い、その理由が VITAという名前ではそれが無料サービスであることに気づかない、無料サー ビスは質が悪いという固定観念がある等の課題を発見・特定できました。
それら課題については、本件の関係者によって「現状このような課題がある が、もしこうだったらどうなるだろう」という形でVITAサービスを改善する ための様々なアイデアを出し合い、見込みのあるものに肉付けしてプロトタイ プとし、現実に即した形で徹底的に検証しました。検証に当たっては、既存の 行政組織からの独立性を持った活動体を構成することで、部門横断的なサービ ス改善が実現できました。その結果、継続的なフィードバックが得られ、新た な課題も明らかになり、本来の要求を満たす方向に軌道修正できました。
検討の結果、初見では内容を認識しづらいVITAだけではなく、分かりやす くて認識しやすい「NYC Free Tax Prep」とサービス名を変更し、ロゴマー クを作成して、書類提出が簡単にできるサービスも併せて展開することになり ました。さらに、VITAに関する資格確認や、VITA事務所の待ち時間を確認で きるポータルの構築も計画しています。
6.5 プロジェクトの流れ
Discover(発見)→ Define(定義)→ Develop(開発)→ Deliver(提 供、実現)の各フェーズにおいて用いられたツール・活動と、そこから得られ た成果をまとめると図 1 -17のようになります。
図 1-17 NYCによる経済支援プログラム改善プロジェクトの流れ
(出展)行政におけるサービスデザイン推進に関する調査研究報告書(行政情 報システム研究所)
※1(※数字は図1-1内にあるものを指す。
以下同じ。)サービス利用者へのインタ ビューの様子。ニューヨーク最大の VITA サービス提供者であるフードバンクフォー ニューヨークシティの協力のもと実施され た。
注記1)
※2ステークホルダマップ:検討対象の申告 サービスに関わるステークホルダを洗い出
し、相互の関係性を記述した。 注記2)
※3チャレンジカード:エスノグラフィ調査 に基づく発見から、市民の声を発想フェー ズに生かすために作成されたツールキット。
DFEのサイトよりダウンロードが可能。
注記3)
※4 アイ ディ エー シ ョ ン スケッ チ :共創 フェーズで検討したアイデアを手書きのイ ラストを添え視覚的に理解しやすいものに した。
注記4)
※5ストーリーボード:100のアイデアを集 約したコンセプトのうちの1つ「VITAポー タル(ウェブサイト)」のもの。利用者が サービスを利用する一連の体験が表現され ている。
注記5)
※6サービスブループリント:「VITAポー タル」を利用するユーザー、税申告者、行 政それぞれの体験を、サービスを構成する 要素として記述。全体的な視点で最適な サービス提供フローを検討した。
注記6)
※7モックアップ:「VITAポータル」の利 用しやすさを検証するためのプロトタイプ。
スタンドアローンで動作するサイトのモッ クアップとそれを表示するiPad、手作りの 台座で構成されている。実際にVITAサービ ス拠点へ持ち込み、利用者からのフィード バックを得た。
注記7)
※8 刷新されたサービスのブランディング
TAX TIME:PROJECT の結果をうけ、リ
ニューアルされたサービスのロゴマーク。
利用者がどのような価値を享受できるのか を、明快に表現している。VITAサービス拠 点検索サイトへ実装された。
注記8)
注記1)~注記8)画像の出展元
Designing for Financial Empowerment(http://dfe.nyc)
NYC Consumer Affairs(https://www1.nyc.gov/site/dca ) TAX TIME JOURNEY(https://vimeo.com/138519985)
6.6 プロジェクトの進め方のポイント
(1) 既存の給与所得税控除サービスは、無料サービスであるにもかかわらず 利用率が低い状態であったこと。
(2) その原因に気付きを与えたのが、当該サービス利用者を対象としたヒア リングによる現状調査であったこと。
(3) 現状調査を通し利用者を深く理解することによって、サービスそのもの の利便性だけでなく、それ以前のサービス名のわかりにくさ、無料サービ スに対する固定観念等、一連の利用者体験全体を見通した課題の発見・特 定ができたこと。
(4) 改善活動に当たり、既存の行政組織からの独立性を持った活動体を構成 することで、部門横断的なサービス改善が実現できたこと(行政だけでな く、NPO、民間、大学が共同で組織を設立したことで、産官学の協働を 進めやすい環境が醸成されたこと)。
(5) 課題への対策の一つが、提供者の視点では気付けなかった「分かりやす い名前を付けて利用者に認知されやすくすること」というある意味非常に シンプルなものであったこと。
(6) 新しいサービスを構築するに当たっては、プロトタイプを用いた検証を 重ねて新しい課題を洗出し解決することを繰り返すことで、利用者の本来 の要求を満たす方向に導けたこと。
<出展元情報>
出展元においては、本事例以外にも複数の海外事例が紹介されているので 参考にしてください。
出展 元1
Service Design Network (SDN) Japan より
Service Design Impact Report : Public Sector 日 本 語 版
(full))
(UR L)
https://www.service-design-network.org/chapters/sdn- japan/headlines/service-design-impact-report-public-sectorjpfull
(上記ページ内PDFファイルの30~35ページ)